教授ごあいさつ

慶應義塾大学医学部 教授 南宮 湖

慶應義塾大学医学部
教授 南宮 湖

 慶應義塾大学医学部感染症学教室・慶應義塾大学病院臨床感染症センターのホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
 2025年4月より、感染症学教室の教授を拝命いたしました南宮湖(なむぐんほう)と申します。

 慶應義塾大学医学部は1917年、世界的な細菌学者・北里柴三郎先生を初代医学部長に迎え、秦佐八郎先生や志賀潔先生など、名だたる感染症研究者が活躍されてきた歴史があります。
 感染症学教室の前身である寄生虫学教室は、1920年に宮島幹之助先生により日本最古の寄生虫部門として開設され、以来、感染症・寄生虫・熱帯医学の分野において豊かな歴史と実績を築いてまいりました。私たちはこの誇るべき伝統を継承しつつ、時代の変化に即した新たな感染症の診療・教育・研究を推進してまいります。

感染症診療の充実

 感染症はすべての診療領域に関わる横断的な分野であり、同時に医療安全と病院機能の質の根幹を支える重要な領域です。
 当教室では、多くの優秀なスタッフのもとで、HIV/AIDS、結核、非結核性抗酸菌症(NTM)などの感染症から、薬剤耐性菌、新興・再興感染症まで、多様な症例に対応した質の高い診療を提供しています。
 特に感染制御部および臨床感染症センターとの強固な連携により、院内感染対策や抗菌薬適正使用といった、病院機能の要となる取り組みを先進的に推進しております。
 感染症専門医育成の場として、入院診療やコンサルテーション体制のさらなる充実を図ってまいります。当院での研修をご希望の方は、どうぞお気軽にいつでも私までお問い合わせください。

基礎から臨床をつなぐトランスレーショナル研究の推進

 私自身はこれまで、呼吸器感染症、特に非結核性抗酸菌症やCOVID-19を中心に、宿主ゲノム研究・ワクチン応答解析・疾患感受性遺伝子の機能解明といった、トランスレーショナルリサーチを、多くの医師・研究者と手を取り合って推進してきました。
 当教室では、ゲノム解析・免疫学的解析・マウスモデル・イメージングを活用し、疾患の病態解明と治療標的探索に挑んでいます。臨床現場で得た知見を、基礎研究へと還元し、再び医療の現場へと循環させる――それが私たちの研究の理念であり、それを実現できる研究体制が、多くの熱心な研究員と共に構築できております。
 感染症学教室は、基礎・臨床一体型のユニークな教室体系であり、臨床検体を用いた研究を行いやすいという環境があり、実際、コロナ禍においては、他に類を見ないCOVID-19やCOVID-19ワクチンの研究体制コロナ制圧タスクフォースを構築するとともに、世界をリードするトランスレーショナル研究を進めてまいりました。ネクストパンデミックも見据えて、さらに強靭な研究体制構築を構築するべく、教室員一丸となってトランスレーショナル研究を進めていく所存です。

感染症分野における臨床開発と未来への貢献

 当教室では、基礎・臨床研究にとどまらず、様々な臨床研究、特定臨床研究、企業治験、医師主導治験に精力的に取り組んでおります。
 今回のコロナ禍において、臨床サイドが十分に「臨床開発」を進められなかったという深い反省があります。この経験を踏まえ、私たちは平時から感染症領域における臨床研究体制を構築することの重要性を強く感じております。
 当教室は、感染症分野において臨床開発を進められる人材を強力に育成し、創薬やワクチン開発に貢献する感染症治験・臨床研究のハブとして、当教室が日本・アジア・世界において中核的な役割を果たすよう取り組んでまいります。

国際展開とグローバル人材育成

 私、医学部時代から国際保健に強い関心があり、感染症に興味を持つようになりました。医学部5年時に大学を休学し、南インドの現場で見て、感じたものは、決して、貧しく、かわいそうな現場の医療重視者でなく、優秀で熱意のある方々でした。それ以来、国際共同研究、技術移転も立派な国際保健であるという考えを持ち続けております。
 そのような観点から、現在、様々な国・地域の医療機関・研究機関と国際共同研究を開始しております。国際感染症の重要性が増す中で、グローバルな視点から感染症への取り組みが必須でありますし、今後は国際感染症への取り組みなしには、国内の問題にも対応できないという問題意識のもと、グローバルプロジェクトに積極的に取り組んでおります。
 若手医師や学生にもこの国際的な視点を提供するべく、海外の研究機関や国際学会への派遣を支援し、グローバルな視野を持つ感染症専門人材の育成に努めます。
 将来的には、慶應発の海外研究拠点の設置と、学内外ネットワークの再構築を通じて、日本発の感染症学を世界に発信していきたいと考えております。

 「感染症・寄生虫学・熱帯医学」の歴史を踏まえながら、基礎と臨床を融合し、社会に開かれた国際的な教室を目指してまいります。
 多職種協働の力を最大限に引き出し、アジアそして世界を見据えた感染症教育・診療・研究を推進していく所存です。

 どうぞ今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

南宮 湖
慶應義塾大学医学部感染症学教室 教授
慶應義塾大学病院感染制御部 部長
慶應義塾大学病院臨床感染症センター長
2025年